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イチゴアイスの中に入っている小さな苺のつぶ、海辺で手のひらに残った砂つぶ、乾いた地面に落ちた最初の雨つぶ…小さいことだけど、ちょっと人生が楽しくなったり豊かになる。そんなつぶつぶを探しに行こう。

2014年4月27日日曜日

【報告】Sweet Science 「酵母のハナシ」

カガクの粒企画、初心者向けサイエンスカフェ第2弾
Sweet Science @渚小屋 vol.2 『酵母のハナシ』(講師:出井正道さん)
終了いたしました。

インターネットで情報収集しているときに、投げれば土壌をきれいにしたり、それを飲用して身体をきれいにするらしい「微生物」に関する製品を販売しているとある団体が、科学者や研究者から批判されているのを見ました。なんだか、随分激しい批判・・・。どうやらこの団体は「科学的」とは言えないアプローチをしているからなようです。でも一体何がいけないのかな?そもそも微生物って何なのか?あれ?全然わかってないじゃん!乳酸菌、発酵食品、酵母。こんなにフレンドリーな言葉なのに、ぜーんぜんわかってないじゃん!
自分で調べ始めるものの想像以上に微生物は複雑・・・と、とりあえず酵母だけでも・・・
ちょっと情けないような弱弱しい動機が、このサイエンスカフェの始まりでした。

では少しですが、様子をお知らせしましょうか。
2014年4月26日(土) 会場から臨む逗子海岸
1)大雪と晴天と
このサイエンスカフェを当初予定していた2月、まさかの大雪でイベントは中止となってしまいました。(→当ブログ2月のイベント参照。)そんなことがあるんだろうか・・・そしてリベンジの日は、素晴らしくよいお天気。寒すぎず暑すぎず、会場から臨む逗子海岸もなんと美しいことか。そんなことがあるんだろうか。
「地球は人間の思惑とは違うところで動いているのかもしれない」
以前、理科ハウスでエネルギーについてのサイエンスカフェで聞いた、ある参加者のこの言葉を思い出さずにはいられませんでした。どんなに準備万端でもお天気だけはどうにもできんのじゃ。それでも私ができることってなんだろうなあ。
え?少なくとも会場準備ですよ!目の前にあるものの準備、準備。お客様を気持ちよくお迎えしなければ!
初めて来て下さる方が分かるように、案内板(のようなもの)
こちらでやってます~。(渚小屋入口)
テーブルセッティング完了。内容は講師の出井さんの頭の中に。
2)まだ開演していないのに
開場とともに、お客様がいらっしゃいました。今回はほとんどが女性です。テーブルには出井さんが用意した不思議なぬいぐるみが・・・。これをネタにすぐに説明が始まり、しかも盛り上がっている・・・。まだ開演していないのに・・・なに、この、自然な入り方。
この子は枝分かれしている(一番人気)
ボールじゃないよ
例のごとく、素晴らしい渚小屋のお料理が並び、全員に飲み物がいきわたった所で、いよいよスタートです。(もう始まっちゃってたけど (笑))酵母のハナシに合わせて、特別に店長が用意してくれたお酒もぜひどうぞ。店長のアドバイスで、簡単な自己紹介もして、飲みながら食べながらやりましょうよ。
手前はギセイドウフ。絶品です。
酒だ酒だ~!
自己紹介なう。
スライドにはサブタイトル『酵母、酵母というけれど、結局、なんなのさ?』の文字が
3)酵母ってなんだろう
「酵母とは、真菌のうち、単細胞で、主に出芽という方法で増えるもの」

その定義を述べる前に、まず、動物、植物、微生物という3つの分類を明らかにしました。さらに微生物が、真菌、細菌、古細菌に分かれること、そして酵母は真菌であること、その大きさなど、一通りの定義を説明してくださいました。その大きさについても、例えば細菌が小学生だとしたら真菌はキリン位大きいんだよなどなど。出井さんはとてもなめらかな語り口。そして彼が質問に答えるたびに、参加者が思わず笑ってしまう。ふーん、そうなんだ。メモする人多数。説明は参加した方に聞けばよいですね。よし、省略(え?)
日本で酵母といえばこれなんだそうです。
4)まさか、これが、あの?
「では、ここでクイズです」と、参加者にカードが渡されました。
パン、納豆、ヨーグルト、日本酒、ワイン、しょうゆ、くずもち、みそ、ナタデココ、チョコレート、緑茶の絵が描いてあります。これを「酵母が関わる発酵食品」とそうでないものに分けるのです。さあ、三つのグループに分かれてやってみよう!
出井さんお手製です。
各グループとも、相談しまくりです。「こうだからこうではないか」初めて出会ったお隣の人と相談が止まりません。みなさーん、盛り上がりすぎです~!
「はい、終わり~」と、出井さん。そして答えを発表。
「えーーーーー!!!」
会場のそのどよめきと言ったら・・・。

このクイズをきっかけに、質問、質問、質問。休憩といっているのに!ケーキが出てきたのに!質問しまくる方たち。(ちょっと奥さん!ケーキですよ、ケーキ。)
ケーキですよ~!(今回はプラスアルファで)
そして答え続ける出井さん。向こうのテーブルで質問している方がいれば、こちらのテーブルでは発酵について話している方。なんだか、雑然としているのに、みなさんが酵母や発酵の話をしているのです。
『天然酵母って何ですか』
『このぬいぐるみみたいに酵母に目があるんですか』
『酵母によって酵素って違うんですか』
『ミイラは腐らないんですか?(発酵と腐敗の区別についてのお話を聞いて)』
『なぜ(酵母を)分類する必要があるのですか』
『(人工酵母の新聞記事について)どう思いますか』
『酵母と酵素の違いがやっぱり分かりにくい』
などなど。うーん、これ、もう講義じゃないよね。まさか!?これが、あのサイエンスカフェですか!?
日没。スライドの説明が終わります。

4)皆さんの感想
宴たけなわではございますが、そろそろ終了の時間です。(あのー、みなさーん、終わりでーす。帰りますよー。酵母のハナシはもう終わりでーす・・・って聞いてる?(笑))
盛り上がりまくり。
帰りにアンケートを書いたら、カガクの粒サイエンスカフェ恒例、こちらの回収箱に。いろんな感想を頂きましたので少しご紹介しましょう。
本日のもんだいの答えと思われる番号にアンケートを入れてください。
今回は全員正解でした!すばらすぃ!

◆自分の体にどういった菌が合うかは異なるんだというのは、びっくりしました。
◆科学も化学もぜんぜんうといのですが、楽しい先生のトークで調子に乗って色々思いつくまま質問してしまいました。
◆酵母は生き物・・・なんとなくそうかもと思っていたことが今日はキチンとわかった・・・ような気がします。
◆食事もおいしかったです!
◆私たちは生かされているんだなあとつくづく思います(他の生き物のおかげで)。
◆酵母と酵素の違いがわかってすっきりしました。
◆小さな疑問も聞きやすくてカガクが親しみやすくうれしいです。
◆出井さんのお話はわかりやすかったです。
◆クイズ形式をもっと取り入れてもよかったかなと思いました。
◆発酵食品は身近にあるものなのに意外と知らないことなど多かった。
◆研究を生業とする人のなかでも、役割わけがあるんだー。
◆DNAのもとが別々に売っているとか、合成指令が出せて生成?製造できるマシンがあるとか。
◆聞いている側の反応を見ながら話を進めていただき、わかりやすかったです。
◆発酵と腐敗は同じ(人間の都合で区別しているだけ)など考えてみれば当たり前なのに気づいていたなかったことがあり、新鮮でした。
◆モヤッとしたことをみんなでしゃべるのって楽しいね!!
◆出井さんほどお話ができるわけではないのですが、このような少人数でサイエンスカフェをやってみたいと思っていたのもありまして(参加しました)
◆酵母のことだけでなくお客さんとコミュニケーションしながら、場を進めていくことについても勉強になりました。
皆様、ご協力ありがとうございました。


5)サイエンスカフェ、大いにあり
一般人と科学との関わりは、サイエンスカフェだけではないでしょう。科学館へ行ったり、本を読んだりという能動的な関わり方はもちろんですが、普段の生活に知らず知らずのうちに受けている科学技術のような無意識に近い関わり方もあるでしょう。そして、人の興味はそれぞれでしょう。例えば、先日行った科学技術館で、走り回って体験する子供たちと対照的に、休憩コーナーでずっとおしゃべりしているお母さんたち。科学館で科学とは関係ない話で盛り上がる、それも大いにありでしょう。
でも、一般人が科学をテーマにワイワイやる、ちょっと詳しい人も、全然詳しくない人も、モチベーションが高い人もそうでない人も、なんだかワイワイやっている、疑問に思い、考え、ああそうか、そうなんだ、難しいね、もやもやするね、と言っている。そんな場所もあってよいのです。
もしかしたら、サイエンスカフェやアウトリーチ活動が、専門の方々にしてみれば、実は面倒なものかもしれないと不安に思ったことがあります。一般人と専門家とのダイレクトなつながりに意味があるんだろうかとすら思ったことがあります。そして、そもそもこの企画を行う動機となった疑問には、今回まだ答えられていないのです。難しいです。
が、この日の参加した方の盛り上がり方を見て、サイエンスカフェ大いにあり、そう思いました。科学のルールを知っている人とのダイレクトな接触であるが故の盛り上がり方だったのではないかしらん。こんなに楽しそうな人々を見ると、またやりたくなってしまう。その気持ちに根拠や説明がつかず、困ってしまうのですが。


出井さんは現在本を書くための準備をなさっているとか。今後も全国でサイエンスカフェやトークに呼ばれているそうです。楽しみですね。
最後になりましたが、出井さん、渚小屋の店長、そしてご参加の皆様にこの場をお借りしてお礼を申し上げます。ありがとうございました。

ちょっとまとまりがなく、参考にもならないけれど、今日はこれまで。
(おわり)

2014年4月5日土曜日

「放射線」を知る旅 5日目

5日目 知っておきたいこと

「2年8か月、何やってたんだろね。」
そういって終わった4日目の旅は、丸3年たった2014年3月、ようやく「次の日」を迎えることとなりました。この2冊に出会ったわけです。

『いちから聞きたい放射線のほんとう』菊池誠×小峰公子(2014年3月 筑摩書房 ISBN 978-4-480-86079-8)
『原発事故と放射線のリスク学』中西準子(2014年3月 日本評論社 ISBN 978-4-535-58650-5) 

というわけで、旅の感想(読書感想文)を少し。といっても例にもれず長いです。(なお、これらの本についての書評は、立派な方々が多数書いておられますので、検索してそちらもお読みください。)

1)気楽さがあるから不思議
 『いちから聞きたい…』は、菊池誠さんと小峰公子さんの対話形式で文章が進められています。おかざき真里さんのイラストや漫画もあって、今まで出会った放射線関連の本とはちょっとわけが違います。白地にオレンジの文字の表紙?はあ?ほんとうに放射線の本なのお?という感じです。
 対話形式というのは読みやすいけれど、ややもすると実は読みにくいものです。話の全体がぼんやりして、「で、結局何がいいたいわけ~?」ということになりかねない(反省も込めて)。
 でも、この本はそのあたりが絶妙にうまいのだな。言葉が子供(幼児・小学生低学年)向けじゃないので大人には多分に読みやすい、でも中学生でも読めそう。チャプターのタイトルのすっきり感、大事なところは太字で書いてあったり、最後にまとめをしてみたり。どこから読んでもよいし、気になるところから読み始めて、もどったり繰り返し読んだりすればいい、そう思いますし、そうしました。
 きちんと語っているのに、まるで雑誌のような気楽さ。これは不思議。
 だって、少なくとも私の中で、気楽に語れるテーマじゃなかったぞー。放射線って。
 不思議!


2)痒いところに手が届く
 『いちから聞きたい…』で私が一番感動したのは、半減期の説明が本当にわかりやすかったこと。この説明は、この世界の人には常套句なのかもしれないけど、初めて聞きました。
 それから、等価線量、実効線量、空間線量率、預託実効線量についてそれぞれ説明してくれていること。前回の「旅」で、数値がわかればもっとわかりやすくなるんじゃないかと思った所が説明されている。
 「タブレットとスマホとガラケーとパソコン。知ってる人には全部違うけれど、じゃあ、うちのばあちゃんに説明してみ?無理無理・・・え?ちょっと!見事に説明してはるで!」
 そんな感じです。(え?)
 そしてリスクについても触れている。これは、アルファ線がベータ線がどうのこうのより(ごめんなさい)、もしかしたらフツーの人が一番知りたいところなのかもなあ。一番「答え」が欲しいところなのかもなあ。そうだとしたら、本当に痒いところに手が届いてる。
 この本についてあえて求めるとするならば、索引があったらよかったなあって思います。

3)リスクということ
 『原発事故と…』は、そのリスクについてもっと専門的に書かれている本です。難しいところもありましたが、大変参考になりました。
 福島第一原子力発電所の事故を話すといつも出てくる「安全」という言葉。うん、大事なんだよね、「安全」が。
 でも、じゃあさ、この社会でまたはあなた個人にとって「安全」てなんでしょう?ゼロが安全なの?ゼロってどんな意味?この数値だから「安全」なの?その数値ってどうやって決まったの?「安全」だから「安心」なの?
 この本はそれを考えるのに必要な材料を提供してくれる一冊なのでした。この本の中で、大変難しいけどできれば知っておいたほうがいいんじゃないかと思った説明は、LNTモデルというもの。難しいよ、本当に。でもここ大事だと思う。
 中西準子さんという方は、リスクについて日本を代表する研究者なのだそうです。恥ずかしながら私は全くその名前を知らなかった。ダイオキシン問題、BSE、など様々な環境問題に対して、「リスク」という観点から真摯に取り組んでいらっしゃった方なんだそうです。原発事故のリスクについて、ものすごく具体的な考えを提示しています。それを読んで、社会と科学、政治について、議論すること、自分で判断すること等など、そんなことを考えずにはいられませんでした。
 

4)科学技術館で
 この2冊は並行して読んでいました。一冊から一冊へ行ったり来たり。わからなければ前に戻ったりもしました。なるほど!と思いながらも、実際にはあまりに問題が複雑すぎて、いくら「気楽」でもめげそうにもなりました。
 そんな折、東京の九段下の科学技術館へ行きました。
そこでは、放射線の動きを知るゲームや、子供を対象に線量計を使う実験が行われていました。子供たちは楽しそうで、必死に数値を書き取り計算していました。わあ。なんだか嬉しいな。
 え?能天気?
 そうかなあ。
 放射線について全然知らなかったから、3年たっても私みたいのがいるんじゃないのかなあ。こうやって放射線について学習する場があるって大事なことなんじゃないかなあ。

 カガクの粒が始まって丸1年。本当に何も知らずに始めて恥ずかしいことばかり。やめたほうがいいのかなあと思ったこともあったけど、科学館へ行ったり、サイエンスカフェを開いたり、本を読んだり、自分たちのできる範囲で旅を続けよう、子供たちの様子を見てそう思ってしまいました。また霧箱の実験もしたいな、そして、いつか、菊池誠さんを逗子にお呼びしたいな、そんな野望もうまれているのでした。野望すぎる!?
(おわり)