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2013年6月21日金曜日

霧箱から始めよう

1)光電子増倍管の横に・・・
逗子駅から電車を乗り継ぎ約1時間15分。東京都のお台場の日本科学未来館(略して未来館)では、最先端の科学技術についての様々な展示を見ることができます。
未来館、広いです。
科学館や博物館、美術館に初めて行くときはいつもそうですが、そこの広さに慣れなくて非常に疲れます。一体何をお勉強したのか実はあんまり覚えていない・・・一番印象的だったのが、国際宇宙ステーションのモジュールで乗り物酔いになりかかったことですから・・・ひどいもんです。(だって、狭くて傾いてんのよお)
アタシのような不器用な人間には、建物の「広さ」に慣れが必要なんです。いつもと同じ売り場をいつもと同じペースでうろうろしていると、今日はこれが激安(-3円くらい)!と些細な変化に気づいたりするんですけれど、「西友も飽きたわね~。たまにはダイエーの食料品売り場でで買い物してみよう」と思ったばかりに、結局あちこち目移りしてしまい「あああっ!!牛乳買いに行ったのに!!なぜ、こんなものばかり買ってきた!?」となっちまう。そんな感じです。(どんな感じだ)
そんな不器用なアタクシがようやくお目当ての光電子増倍管とスーパーカミオカンデの模型にたどり着いたのは、未来館訪問第2回目の時でした。こんなに目立つのに・・・。
日本科学未来館5階 宇宙のコーナーにずらっと並ぶ光電子増倍管

光電子増倍管(こうでんしぞうばいかん)とスーパーカミオカンデについては、多田将さんという方の『すごい実験』で知りました。忘れもしない2011年の冬、なぜか購入してしまった本。素粒子や加速器なんて言葉とは無縁のこのアタシが。この本は「すごい」本でした。高校生にした講義をまとめたもので、このアタシでも素粒子のことが「なんとなく分かった気になれる」本でした。多田将(ただしょう)さんは、高エネルギー加速器研究機構、略してKEK(←なによこれ、コー・エネルギー・カソクキって、日本語じゃん)で働いている偉い方で、施設の案内のほかにもトークショー(特別授業)なども行っている不思議な金髪の公務員の先生です。
素粒子物理学は、ちょー難解で、数学の分からない人、高校の物理の知識がない人が理解しようと思ってとっかかっても無理だと思う。でもね、この人のお話を聞いたり読んだりすると「とにかくすげえぞ!J-PARK!」と思います。すごい実験をしてるんだな、大事な実験なんだな、ちょっとでもわかるようになりたいなと思うのです。
『すごい実験』 多田将 著
株式会社イースト・プレス(2011.8)
ISBN 978-4-7816-0624-8

 その本のことを思いながら、しみじみ光電子増倍管の展示の前にたたずみ、ふと横をみたら、こんなものがありました。
四角い黒い箱。
あやしい!中をのぞくと、薄い霧の中を、小さな糸くずのような飛行機雲みたいなものが、びゅんびゅん飛んでいます。
・名前ペンで描いたような太さの短いもの
・左手(利き手じゃない手)で書いたボールペンの線みたいなぐにゃっと曲がった細いもの
・たまにミシン線みたいな細くてちょっと長いまっすぐな線
できては消え、できては消え、見ていて飽きません。
なんじゃこりゃ。

2)箱の正体
それは、「霧箱(きりばこ)(the cloud chamber)」と呼ばれる物でした。霧の中に現れていたのは放射線が通過している飛跡でした。なんと!!放射線が通過しているのが見える!

どうやら理科の授業では超有名なシロモノだったようですがね、アタクシは全く知りませんでした。見たことも聞いたこともなかった!
霧箱については、ウィキペディアにも書かれていますし様々なサイトで情報を得ることができます。動画も沢山ありました。そうやって調べていてまず、アタシがスゲエと思ったのはこんなこと。

①chamberだよ
霧箱の「箱」がchamberであるってのが、ぞわぞわっとします。chamber ですからね。roomでもboxでもないんですからね。言うなればchamberは「お部屋」というより「居室」という感じ。ちょっと気軽には入れない敷居が高い感じがあります。ハリー・ポッターシリーズ、「秘密の部屋(the Chamber of Secrets)」の部屋もchamberですよ。なんだか、ヒミツ感たっぷり!
昔、中谷宇吉郎さんという学者さんは、「霧函」という漢字を使っていたようです(注1)。細かいことですけどね。昔は「箱」と「函」の区別があって、同じ発音でもイメージが随分違う気がしますね~。

②霧箱じゃなくて雲箱?
霧箱を発明したのは、1869年スコットランドで生まれてマンチェスター大学、ケンブリッジ大学で研究をしていたチャールズ・トムソン・リーズ・ウィルソン(Charles Thomson Rees Wilson 1869-1959)という人です。「1894年の夏、日光を受けて輝く朝の雲を見て、これを人工的に再現できたら素晴らしいと思った」(注2)といいますから、最初は雲を作りたかったんですね。あらあ、素敵なおじ様じゃない?

③霧箱の威力
「大型加速器が本格稼動する1950年代まで、宇宙線を用いた素粒子研究が主流であった」(注3)と書いてある本がありました。C.T.R.ウィルソンさんが霧箱のオリジナルモデルを完成させたのが1911年頃だそうですから、その後40年くらい素粒子研究に普通に使われてたんだあ。霧箱を使って陽電子とかミュー粒子もこれを使って発見されたんだって。すごいよ、霧箱!

④過飽和状態
C.T.R.ウィルソンさんが苦労したのは、箱の中に「過飽和状態をいかにつくるか」ということだったそうです。あら。「飽和」って、中学生の理科で「飽和水溶液」って習った気がするわ。
子どもの教科書にもこう書いてある。「物質が溶解度まで溶けている水溶液を飽和水溶液という。溶解度は溶質の種類によって決まっていて、温度によって変化する」(注4)
霧箱の場合は気体の過飽和だけど、「過飽和」ってどういうこと?飽和を過ぎたら、液体は固体に、気体は液体になっちゃうんじゃないのおお!!??なんだか不思議~。物理なのに化学だね~。

⑤α線とβ線の飛跡が見えるらしい
これはすごい。すごいったらすごい。

⑥え?家で作れる?
どうやら、簡単な霧箱なら家庭で作れるらしい・・・。C.T.R.ウィルソンさんが作ったものとはちょっと違うタイプだけど、同じように放射線を観測できるらしい。まさか・・・。これは・・・。

注1)「茶碗の湯」のことなど 中谷宇吉郎 http://www.aozora.gr.jp/cards/001569/files/53239_49850.html
注2)『ノーベル賞で語る現代物理学』 池内了著 p.207 「測定器・宇宙線・加速器」
   新書館(2008) ISBN 978-4-403-25097-2
注3)同上 P.210
注4)『理科の世界 1年』大日本図書(平成24年2月) 4章 水溶液 p.120


3)作ってみました
というわけで、作ることにしました。
決めたんです。作ってやる。役に立つのかとか、子どもの教育のためですか、とか聞かないでくれたまえ!純粋に、ただ純粋に主婦の好奇心です!!
無水エタノールとドライアイスがあれば、あとは家庭にあるもので作れそう。と思って薬局に行って、無水エタノールの瓶がでかい。でかすぎる。アタシには霧箱以外に使い道がなさそうだったので、結局、無水エタノールも入っている簡易霧箱製作キットを買った(オキドキサイエンス霧箱キット)。
組立ては簡単。不器用なアタシにもできたんですから、世の中の素敵な奥様なら絶対に作れます。あとはドライアイスをゲットするだけだ!

そこでまた疑問。えー、なぜドライアイスなんでしょう。氷じゃダメなのお?
そう思って、未来館にまた行き、コミュニケーターさんに聞いてみました。(えー、またあ?って言った?うるさいですよ。洋服とか外食とかに浪費してないんだからいいでしょっ!)
なぜドライアイスで冷やすのか?それは、容器の底から1~2cmの高さの中で温度の差(温度勾配)が40度ないと、必要な霧ができないからなんだって!そっか!氷は0℃で室温が20℃だと、その差は20℃しかないもんね。ドライアイスは-79℃で昇華しちゃうから、もし寒い冬室温が5℃でも、80℃以上の差があるんだね。なーるーほーどー。
ドライアイス、最近はスーパーでも冷凍食品とかを買わないとくれないところも多いんですけどね、あつかましくもらってきましたよー、アタシは!

朝、子どもも旦那もすっかりいなくなってから、そよ風が吹く静かな居間で一人でドライアイスをセッティング。最初は放射線源を何もいれないでストレートで。ふふふ。LEDライトを当てながら、じっと待つ私。素敵なキリバコタイム。

おおおおーーーーーーっ!!!!!ミーーーエーーーーターーーーーー!
すごいすごい!未来館で見えたのと同じ!見える見える!びゅんびゅん飛んでるう!きゃっほーい!!「霧箱」という名前を教えてくれた理科ハウスの人、ありがとー!温度勾配のことを教えてくれた未来館の人、ありがとー!C.T.R.ウィルソンさん、ありがとー!西友のレジの方、ありがとー!!全ての方に感謝しまーす!!

もう、一人で大興奮です。し、しかし、ドライアイスが少なかった(50グラムくらいしかもらってこなかった)。10分位で霧がなくなってしまった。写真も撮れないまま終わった。(がっくり)
なので、夜、再度リベンジ。今度は多めにドライアイスをもらって来たぞ!違うスーパーで!子どもにも旦那にも見せてやろう!

4)長い旅のはじまり
夜は、なぜか、放射線源なしのストレートではあんまり見えなかったので、放射線源を入れて観測することにしました。(自然の放射線て朝と夜では量が違うなんてことあるのかな。)放射線源はキャンプ用のランタンのマントルを1センチ角に切ったものです。トリウムという元素が入っているのだそうです。(知らなかった)
放射線源を入れると、飛び方が全然違います。飛ぶ数が多いぞ~!
マントルから出ているα線の飛跡。絶え間なく飛んでます。
子どもたちも「放射線怖い」と言って、即効拒否反応を示していたのに、娘はいつの間にかずーっと観察しています。息子は「何で飛行機雲みたいになるのか」知りたがります。うーん、うまく説明できないよ、母は!すまん!理科の先生に聞いてくれ!やっぱり、実験てダイナミックだよな。ものすごい説得力あるし、疑問がいっぱい出てくるよな~。この実験、中学生がやればいいのにね~。理系とか文系とか関係ないよね~。だって、アタシだってこう思ったよ。

日用品からだけでなく、普通の空気中にも放射線は沢山飛んでいるのに、じゃあ、なぜ、皆「放射線怖い」って言うの?放射線の何が怖いの?どうなると怖いの?放射線てなあに?

実は、恥ずかしいことだけど、2年前大きな原発事故があったし今も収束していないにもかかわらず、生まれて初めて放射線について真剣に考えた。実は、放射線のこと何にも知らない。この2年間勉強しなかったし、したいとも思わなかった。新聞でもニュースでもいろんな人がいろんなことを言っていて、シーベルトだベクレルだって聞いたこともない単位で、もうわけがわからない。沢山の方がなくなったり、今でも苦しんでいる話は聞くのがつらいし、いろんなことが急に見直されて、世の中に対応するのに自分が必死。食品の汚染が心配というママも沢山いたけれど、スーパーに置いてある物を信用して買うしかないって思ってたし。本当に知識がなかったし、得ようともしなかったよ。うちの子が、放射線と聞いて「怖い、怖い」とすぐに言ったのと、私自身なんら変わりがないってことなのよ。でもさあ、いつも思うけど、ただ「怖い」って泣いてるだけじゃ、怖いことを克服するのって難しいよね~。先に進まないよね~。

というわけで、霧箱の大興奮から、アタシは生まれて初めて放射線について書いた本を読んでみよう、と思ったのです。遅いのは承知。また、長い旅になりそうだなあ。

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